いただきましたモニター当選者の皆様のご感想は、こちらのページ上にて掲載させていただきます。感想を御覧になって、お好みの本を見つけてください。

不時着する流星たち

■第72回モニター「不時着する流星たち」小川洋子

※いただいた文面から、一部抜粋させていただきました。

みのりん さん (10代・学生)
「古今東西の記憶にインスパイアされる」と聞いて、まったくどのような作品か想像できずに読み始めたのですが、不思議な世界観にすっかり取り込まれてしまいました。紹介されたとおり、「フィクションともノンフィクションともいえない」、この言葉に尽きます。フィクションだと思って読み進めた先に、こういったノンフィクションの裏に成り立っていた話だったのか…と腑に落ちるあの感覚がたまらない、そんな本でした。
刹那 さん (20代・学生)
どの短編も面白く、原作を手に取って読みたい欲求と、そしてどの物語にも小さな輝きと心に残る余韻を感じました。
冲方丁さんの「もらい泣き」に似ている物を感じました。あまり知られることなく埋もれていた素晴らしい物語に巡り合わせてくれたことを嬉しく感じました。
スピカ さん (50代・主婦)
小川さんが人や出来事にインスパイアされ紡ぎ出した10編の物語は、現実と狂気の境界線が曖昧な不思議で美しく奇妙な世界。どこかノスタルジックな香りのする文章で想像力を刺激され、遠い昔の記憶を呼び起こされた。元になった人物や出来事を知らなくても十分楽しめましたが、知っている人についての短編はなお一層の味わいがあったので、解説文を読んでもう一度物語を読み直すと、二度、三度と楽しめる物語になっている。
びたみん さん (20代・学生)
タイトルの通り、どこに向かっているのか分からない流星たちから目が離せませんでした。各短編で語られる人物たちは、どこか滑稽で悲壮で、だけどひたむき。だから、一度その輝きを見たら忘れられないのだと感じました。その人物たちが生きる世界の情景もが、小川さんにしか考え付かないようなものばかりで、ほんとうにステキでした。世界観、語り手、その他の登場人物、すべてが『不時着する流星たち』の軌跡から目を離すことができないように働いていて、さらに誰も知りえない不時着したその先を想像せずにはいられない話でした。
苗木 さん (30代・主婦)
各モチーフが物語の最後に出てくるので読み終わった後にそれを知り改めて調べたりなどして読み直すと違った醍醐味があった。
どの物語も静かで孤独。冬の夜の間の雪のように降り積もって行く物語たちだった。
うっちぃ さん (30代)
誰かの秘密を少しだけ覗き見るような、何処か不思議な世界に迷い混んだような。この人物は多分こんな人、この音はこんな感じ、きっとこんな香りなんだろうな。と想像しながら読みました。
Alice さん (40代)
「わたし」「あなた」「姉」「母」「彼」…。名のない登場人物たち。国籍も時代も場所もわからない。自分のすぐ近くでおこっているようでもあり、はるか昔の事のようでもあり、不思議な話たち。平凡とは言い難い人生を生きているのに、とても静かな印象。各話の後に載っているモチーフとなった人は、ほとんどが知らない人で、読み終えるとその人について知りたいと思った。
しの さん (20代)
それぞれの物語ののち、末尾に記されたモチーフの紹介を読んだとき、物語がそのモチーフにすっと回収されていくと同時に、モチーフから溢れ出てくるような不思議な感覚がありました。大変心地よい感覚でした。一読後、モチーフがどこでどんなはたらきをしていたのか、どうかかわりがあるのか、何度も読み返したくなる作品たちでした。
 それぞれの物語は、匿名の登場人物でありながら、その人にしかない人生、生活、生そのものの確固たる重み、切実さのようなものが感じられました。読後、日々すれ違う名前の知らない人々にも、それぞれそのひとにしかない生活、人生が隠れているのでは、と思わずにはいられません。小川先生の作品は、ちょっと不思議なことが書かれていることが特徴だと思っており、また惹かれて読んできましたが、この作品でもその特徴はあるものの、そのモチーフを通して描かれる人々の生の息遣いが魅力なのではと改めて思いました。
 モチーフの説明文も、一見辞書の説明のように見えますが、内容が独特でモチーフの魅力がよく分かり、面白く読みました。
さとみ さん (20代・会社員)
触れそうで触れないもどかしさ、というのでしょうか。
作中、モチーフとされる人物・事物は、ほとんどの場合、くっきりとした輪郭を持ちません。ときにはオマージュのようで、ときには錬金術のような。各編、読み終えるころに(もしくは読み終えた次ページの人物紹介に目を通して)ようやくひと握りの交錯がぼんやりと浮かび上がって、その姿をみとめた気分になる。
その瞬間のもどかしいような、むずがゆいような感覚をたのしみながら読み進めました。
雪景色 さん (30代・会社員)
たとえば「軌道にのっている」ということを「模範的な人生を送る」という意味に置き換えることが可能であれば、この作品に出て来る登場人物たちはまさに「不時着する流星たち」なのだと読後に感じました。
登場人物とその周辺によって起こる生活の片鱗ーーままごとや手習い、オリジナルの願掛け、蒐集への執着、あるいは自己ルールによる内罰は誰もが幼い時代に経験したことがあると思います。
それら「秘密のおこない」めいたものは誰かに見せるものではなく、ましてや自分から語るものでは絶対にない、そして秘密であることでなお、寡黙な存在感を強烈に印象付けるような人もいます。
ほとんどの人々が生きている間もしくは成長過程で失っていく、あるいは奪われていく「秘密のおこない」のわずか、ほんのわずかを決して奪われることなく守り、あるいはずっと縛られたままずっと持って生きて死んだ人々がいる。
忘却され日々にかき消されていく彼ら彼女らの物語において、その静かな興奮を、張り詰めた緊張を味わっているような本でした。
きっと彼らへ出会ってもその姿を静かにみつめるだけでいいのです。
ミドリムシ さん (50代・主婦)
時代も場所もわからないような、でもだからと言って曖昧なふわふわした感じではなく、それぞれの話の場所も人も静かに確かにそこに存在している。そんなとても不思議な10の短編。それぞれ最後にある話の元になったモチーフを読むと、あぁそこから生まれた話だったのか、そこからこんなに素敵な世界を見せてもらったのかと深い溜息が出る。どこかしんとした寂しさのようなものを感じる話ばかりだけれど、もし私がその物語に閉じ込められてしまっても、それは今より心地良い場所かもしれないとも思う。本を閉じても私は不物語の世界から戻るのが惜しくて、まだ静かに心地よくゆらゆら揺れている。
ことぶきジロー さん (50代・会社員)
同じようなテイストの10編の物語から成る短編集。よくぞ、これだけ奇妙な物語ばかりを紡ぎ出したものだと感心する。
そもそも、タイトルの『不時着する流星たち』からして非常に奇妙だ。通常、‘’不時着‘’という言葉は航空機にしか使わないし、‘’流星たち‘’と敢えて‘’たち‘’を付けているからには流星を擬人化しているのだろう。つまりは、流星というのが航空機でも人でもあるという有り得ない状態が表現されていることになる。全くもって奇妙なタイトルだ。
この奇妙なタイトルが象徴しているかのように、ヘンリー・ダーガー、ローベルト・ヴァルザー、パトリシア・ハイスミスといった作家や社会心理学者のスタンレー・ミルグラム、ピアニストのグレン・グールドなどに着想を得たと思われる10編の奇妙な物語。いずれも決して後味の良いものではなく、心の中に小石を置かれるかのような違和感が残る寓話的な、或いは哲学的な物語ばかり。

第一話『誘拐の女王』、第二話『散歩同盟会長への手紙』、第三話『カタツムリの結婚式』、第四話『臨時実験補助員』、第五話『測量』、第六話『手違い』、第七話『肉詰めピーマンとマットレス』、第八話『若草クラブ』、第九回『さあ、いい子だ、おいで』、第十話『十三人きょうだい』を収録。
第九回は第九話の誤植だろうか。
不時着した私 さん (20代・学生)
“ここにいないもの”である彼らはどんなに不当で理不尽な扱いを世界から受け虐げられても、唯とても恵まれていた。彼らは、彼らのための、彼らに最も相応しい方法で、あまりにも慈悲深く、あるいは、あまりにも残酷に“ここにいないもの”として真摯に葬られたからだ。
彼らが声にできなかった言葉はひとつ残らず拾い上げられ、吐息がかかれば崩れ落ちてしまいそうな感情すら一片も欠けることなく、彼らの記憶の輪郭は緻密になぞられた。そうして“ここにいないもの”たちの葬列は物語として紡ぎ上げられた。
その葬列を偲び続く者となるのが私たちだ。彼らのために私たちは、苦しくなるまでに深く祈ることになるだろう。そして彼らの記憶たちは、酷い痛みを伴わせ私たちの記憶に刻み込まれるだろう。
壊れた世界の犠牲者としての全ての人間、それが“ここにいないもの”である彼らのもうひとつの名であり、共有できる事実であった。彼らは正しくなかったかもしれない。それでも間違ったことはなく、ただ、ひたむきに歩んでいた。しかしその切実さゆえに、世界のゆがみに飲み込まれ「この世の一番端」に追いやられてしまった。
いつか、あなたが「この世の一番端」に触れることが訪れた時、この葬列の物語の記憶の中にあなたは立ち竦むことになるだろう。「この世の端」に触れることができるのは“ここにはいないもの”だけだ。しかし、「この世の端」という圧倒的な隔たりは、境界は、全ての人に立ち塞がる。
だから、この葬列の物語をともに歩んだ私とあなたは、とても恵まれている。
私がそうであったように、あなたがそこに触れた時、ふわりとも、どろりとも、形容し難い感覚がきっとあなたにも訪れるだろう。
私がそうであったように、その時あなたは、あなたのためにあつらえられた、あなたのための箱の中にいるあなたに気付くだろう。
そして“ここにいないもの”たちが“ここにいないあなた”に寄り添い心から祈りを捧げてくれていることにあなたは気付くだろう。
あなたのための葬列、あなたはひとりではない。その箱の中であなたはあなたでいることの全てが許される。救いようがなかったあなたの痛みや苦しみは、その箱の中に閉じ籠めてしまうといい。
あなたが言葉に声にすることができなかった感情を、どうすることもできなかった記憶を、あなたがあなたであることを、あなたの全てを“ここにいないもの”たちは悼み抱き上げる。そうして葬列は果てなく続いてゆく。
“ここにいないもの”である彼らと私とあなたのために弔いの葬列は密やかに続いてゆく。
とり さん (20代)
小川洋子さんの作品は不思議な空間をちょっとしたすき間から覗き、静かで美しい文章に出会うことが多い。10の短編にはひとつのテーマがあって、どれもこれらの話を読んだあと、それに関連する別の本を読みたくなってしまう。特に興味を持ったのが、ローベルト・ヴァルザーの書いた物語を読んでみたいし、放置手紙調査法についてもっと知りたくなった。
うさこ さん (40代・会社員)
実在する人物、出来事、作品から、小川さんがインスパイアされるとこういう形になるのかと。どこに繋がっているのか、どう汲み取られているのか。私は最初にそのモチーフとなったものの紹介を読んでから本編に入ったので、作品と同時に謎解きのようにも楽しんでしまいました。「わたし」が、いつ、どこで、性別すらも感じさせないものが多く、また、小川さんの手にかかると、知っていたはずの言葉さえ、知らなかった言葉のようによそよそしい切り口を見せられるようで、静謐な中にどこか不穏さを孕んでドキドキする短編集でした。
ハイシャハイシャ さん (10代・学生)
この全10編で構成された、日本や外国、男子バレーボールアメリカ代表から世界最長のホットドッグなどあらゆる物事にインスパイアされた物語たちは、どれも優しく、美しいものでした。
ときに、難解になりながらもその難解さを楽しめ、心地良く感じ、読む悦びがぎっしりと詰まった一冊でした。
この10の世界がより多くの人の胸に届きますようにと、願っています。
K・H さん (20代)
一話一話は短いが読了後、なんとも云えない不思議さ、静謐さ、哀しさ、残酷さ……様々な結末と深い余韻が味わえた。第一話は、裁縫箱の品が姉を救い出したという話にほっとしたのもつかの間。真相を知り目を背けたくなるほど読むのが辛かった。ですが、彼女にはブロンケンがそばにいる。きっと大丈夫、幸せになってほしいと切に願わずにはいられない一編でした。どの物語も私の心を魅了しつかんで離さない、忘れがたい作品でした。
おくちゃん さん (60代・主婦)
言葉にすると何か違うものになりそう。10の作品には10のモチーフがあった。そのモチーフを作者の独特の感性や筆力で読み手は今まで行ったことのない場所、時空でふうわふうわと漂うことになる。寡黙な饒舌。静寂な喧噪。暗闇の明るみ。遥かな此方。そんな何かと何かの「あわい」を浮かんだり沈んだりしながら小川洋子さんの世界を堪能した。
戎橋焼き肉 さん (10代・学生)
「不時着する流星たち」は全部で10の短編で構成されており、そのそれぞれがある人物や物をモチーフにし、短編の最後にはそのモチーフの概略が書かれている。短編はどれも20〜30ページ程度で、読むのに時間はかからず、読みやすい・・・というのは嘘で、ページ数のわりに読了には時間がかかる。理由は、それぞれの短編が底の見えない深みを持ち、またモチーフの持つ物語が小川洋子先生らしい繊細な文章で珠玉の小説となっているからだ。
まるでそれぞれの短編は一つ一つが宝箱のようだ。どれにもそれの持つ独特の空気がありそれがどのようなものなのかは、宝箱を開けて、それから底までよく見てみないとわからないからだ。本当は底などないのだが、それは読者一人ひとりが設定するのだと思う。つまり、読む人それぞれが物語に意味を見出していくのだ。小川先生はそこに寛容な幅を持たせていて、どのようにでも解釈することができる。
「不時着する流星たち」というタイトルにあるように、すべての短編が「不時着」してしまった人々をモチーフに、また登場人物たちの「不時着」を描いている。不時着した先がどのような惑星で、自分がどうなるのかはわからない。しかしその結末にはそれぞれの着地点がある。それをどう思うのかは読者次第ということになる。確実に言えるのは、その先に広がる景色は、あなたが今までに見たことがないものだということだ。少なくとも私は、それぞれの短編のもつ狂気、あるいは希望に圧倒的に打ちのめされた。
なつこ さん (20代)
とっても不思議な読後感でした。
いつもは自然と言葉が浮かんでくるのですが今回はそうもいかず。これほどまでに感想が難しいと感じた本もなかったように思います。
それぞれの物語の世界観が確立されていて、やすやすと足を踏み入れてはいけないよと誰かが幕を張っているような。けれど決して不快ではなく。
それぞれのモチーフがどう物語に関わってくるかを考えながら読み進めるのも新しい感覚でした。幕を張っている誰かが、ヒントを散りばめているけれどでもそう簡単にはいかないよと言われているようで。一筋縄では行かない複雑な物語たちでした。
imasato さん (40代・会社員)
小川氏の作品世界は明確な形を持たず、言葉で表現するのが難しいのですが、美しく、静謐。毒の中に、清らかさがある。儚く、おぼろげ。切なく、心温まる。
強い印象をあえて描かずとも、読者の心に深く残る。それが魅力でしょうか。
本作は、そういった魅力に溢れているだけでなく、題材がとても秀逸でした。
ファンの方はもちろん、未読の方にも、2017年心に残る一冊になると思います。
しおり さん (30代・主婦)
小川洋子さんらしい静かでどこか暖かく、でも少し不穏な雰囲気が漂う短編集でした。モチーフ作品を知らないで読んだので、とても新鮮に感じ独特の雰囲気の物語に揺蕩っている気がしました。モチーフとなった昔の作品を小川さんが書くとこうなるのかと感慨深く、この物語はどこへ辿り着くのかその先には何があるのか気になり心を攫われました。これは小川さんにしか描けない世界観だと思います。読み終わった後もしばらくはこの世界観から心が離れなく、またひとつ好きな作品が増えました。
akabee さん (30代・主婦)
どの短編も、ストーリーの展開が予想できず、どんな方向でストーリーが広がっていくのか、どんな結末になるのか、著者にすべてを委ねるようなフワフワした感覚があった。自分の日常では見つけられないような、小さくて、曖昧で、つかみようのないような世界観を、悠々と独特の表現で深みを持たせているところが、まさに「古今無双」という感じがした。不思議と、そんな世界の中に、自分の心の奥底にあるにある価値観と共鳴する部分もあって、作品を読んでいて、時折、強いインパクトを残してくれるところがまた、面白かった。
現実とも非現実とも言えないストーリーの中に、言葉では言い表せないような、強烈強烈なリアリティがあり、ハッとさせられる。自分のライフステージの様々なタイミングで、何度も読み返してみたいと思う。その時々で、新たな発見があると思う。
東里 さん (40代・会社員)
どこか欠けている、それでも何故か愛おしい。
読んでいる間、そんな言葉がふと頭に浮かびました。
話はそれぞれ完結しているものの、どこか寂しさがあり、不時着した流星たちの儚さ、輝きを終え、どこかに傷を残し、膿んでいく痛みなどを感じ、ああこの後はどうなってしまうんだろう。
どのような最期を迎えるのだろうと登場人物たちのこれからに思いを馳せずにはいられませんでした。
初めて、小川洋子さんの作品を読んだのですが、この作品を初めてにして本当に良かったです。
これから、小川さんの作品を一つ一つ読んでいきたいと思います。
九月猫 さん (40代・主婦)
「世界を囲ってもうひとつの世界を作る」
閉じられているのにどこまでも行ける、その世界。
そこに住む人たちはどこか風変わりで孤独、もの寂しいのになぜか滑稽。
だけど、みんな幸福そうなのだ。
気付けばその世界の住人になりたいと思う自分がいて、はっとする。
危ない危ない。
うっかり踏み込むと、きっと帰ってこられなくなる。
小石を拾う。ひんやりしたそれを掌に包み込む。
ゆっくり、石と手のひらが同じ温度になっていく。
異質なものなのに、境目が存在しなくなる。
ときどき、温まらないままの小石がある。
冷ややかで滑らかでつるつると撫でていると、思いがけずざらりとした引っ掛かりに指が当たる。
どちらの石も不思議な心地よさで、いつまでも手の中に取っておきたくなる。
そんな石の中に「囲まれたもうひとつの世界」はあるのかもしれない。
小川洋子はそんな石を見つける眼の持ち主だ。
石の中のもうひとつの世界を視ることのできる眼の持ち主だ。
ほんの少しその眼をお借りして、囲いの中の世界の物語を読む。
いつか帰ってこられなくなる危険を孕みつつ。
それはなんて魅惑的で幸福な読書だろう。
マリ さん (50代・会社員)
幼い頃、童話を読んで、その世界に自分が迷いこんで、あたかも物語の中に存在しているかのように錯覚したことがありました。大人になって、どうしてと戸惑ったのですが、小川洋子さんの奏でる10の世界にどっぷり迷いこみ、あたふたしている自分がいました。その世界は、おとぎの世界のカラフルな色から、セピア色、悲しみ、死、毒をも孕んだもの、答えは見つからない、その世界にまだいる感覚があります。
モチーフにされている放置手紙調査法、牧野富太郎等々を詳しく知りたいという気持ちとこのままにしておきたいという気持ちが葛藤しています。
この美しい文章、世界が心の中に何ともいえない痕跡を残し、余韻に浸っています。
ごち さん (20代・会社員)
「ゆう、かい」の言葉で始まる、この10話の物語群も小川洋子に期待する、何か予感を感じずにはいられない空気に包まれている。モチーフ群、人物たちへの愛しい視線を浴びながらも、秘密のにおいに満たされ、歯車がなぜかずれてしまう手違いが起きている。これが、小川洋子が“世界を囲って作ったもう一つの世界”であるのだろう。いつかどこかで出会った小鳥やハモニカ兎に薬屋さんや公園の片隅で出会うことができる。彼らの記憶、彼女の周りに紡がれた記憶たちが醸し出す10編に収まらない空気を存分に味わった。
M.T. さん (20代・学生)
ひとつ、ひとつ、違う種類の面白さがあった。最後に、人物の略歴があり、読んでなるほど!そういう方向から来たか、とうなった。例えば、私は作中でグレン・グールド、ヴィヴィアン・マイヤー、牧野富太郎の名しか聞いたことがなかったが、それでも読んでいるうちは、彼らのことなと念頭にもなく、ひとつの小さな物語として楽しんだ。彼らの人物像をよく知る人が読めば、また違った印象を与えるのかもしれない。一遍が短いので、夜寝る前やちょっとした時間がに読み進めることができてよかった。読み始めると一気に引き込まれ、とても不思議な心地がした。ときにざわりと揺らぎ、嫌な部分をざらりと触れられる作品もあり、またぼんやりと気になる終わり方をするものもあり、この1冊のなかで、様々な感情を抱けたことが、とても重要なのではないかと思う。