SPECIAL スペシャル

『傘をもたない蟻たちは』刊行記念特別対談
加藤シゲアキ×朝井リョウ

朝井リョウ(以下、朝井)
加藤さんは2012年から毎年1冊のペースで小説を刊行されていますよね。芸能の仕事と兼業されているとは思えないペースですね。
加藤シゲアキ(以下、加藤)
ありがとうございます。書きたいことを書いて本を出させてもらってすみませんという気持ちと、だからこそちゃんと面白いものを書き続けていく、という責任をすごく感じています。
朝井
これまでの3作は芸能界に関連した内容の長編でしたが、新作の短編集『傘をもたない蟻たちは』はまったく違って、そこに驚きました。著者名が隠されていたら誰が書いた本か分からないくらい。
加藤
過去3作は、まず芸能人が芸能界を書かなくてどうするんだ、という気持ちで書きました。今回は4作目ということで、今このタイミングでやりたいことをやらないと作家として不誠実な気がして。それで文体、技法ともに、まだやっていないことに挑戦しました。
朝井
6編それぞれ違いますよね。私は最後の「にべもなく、よるべもなく」がすごく好きでした。海辺の町の少年たちの話で、町の景色や色彩、匂いが自然に頭の中に立ち上がってきて。
加藤
その短編は幼馴染みが同性愛者だと知って戸惑う少年が主人公ですが、書きたかったのは「理解したいけれど理解できない」という気持ちでした。中高生の頃って、急激に変化する友達についていけなかったり、逆に自分が先に変わってしまうことがありますよね。そのぐらついた部分を表現したかったんです。
朝井
この短編では著者の喜怒哀楽の「怒」の感情が感じられました。小説って起承転結を組み立てて読者を楽しませることに重点を置いたものと、著者本人の感情やメッセージを埋め込むことに重点を置いた作品の2パターンあると思うんです。どちらを選ぶか、私は結構悩むんですが、いかがですか。
加藤
欲張りなので両方やりたいですね。僕は朝井さんの新作『武道館』が、アイドルの女の子の話だったのでびっくりしました。これはメッセージが先だったんですか。
朝井
その通りです。これはアイドル業界の話を書くというより、現代を書こうとしたものなんです。多くの人が様々な反応を示すものってその時代を象徴していると思うんです。今は特に女性アイドルに対して、ハマる人もいれば嫌う人もいるし、社会学者みたいに分析しようとする人もいる。そこに現代の様相が表われていると感じて。
加藤
芸能界の仕事が詳しく書かれていて、すごくリアリティがありました。何より小説としてパンチラインがいくつもあって、面白かったです。

共感できないものを
もっと面白がってほしい

朝井
加藤さんの短編にも、現代を切りとろうという意識があるのかなと勝手に感じました。人々がとある食べ物に魅了される「イガヌの雨」とか。
加藤
あれは「食」をテーマに短篇を依頼されたんです。ちょうどウナギが絶滅の危機にあるとしてレッドリストに指定されたニュースがあって、そこから話を広げていきました。実は「イガヌ」は「ウナギ」の逆読みなんです。
朝井
あっ、ローマ字で「UNAGI」を逆から読んだんですね。今気づいた!
加藤
短編では宇宙生物を食べる設定なので近未来の話になりましたが、結果的には社会風刺風になりました。
朝井
ニュースから小説の種が生まれることは、私もよくあります。最近は特に、数年後忘れられているようなことを書きとめたい気持ちがあります。
加藤
僕は今を切り取ろうという意識よりも、今自分は何が書きたいんだろうという気持ちが先です。でも書いているうちに、今の社会の中で感じていることが滲み出てくる。ただ、ニュースを見て気になることを直接書くのはジャーナリズムの仕事であって、小説はもう少し広げて解釈していくことで、結果的に知識を伝えたり、警鐘を鳴らすことになればいいのかなと感じますね。
朝井
そうですね、時事問題でも小説に包んで提示することで、思いもよらない人にまで届くことがありますし。
加藤
届けたいですね。前に朝井さんが読書に関して「共感できないものをもっと面白がってほしい」という話をされていて、その通りだなと思ったんです。共感できるものに触れて安心したい人が多いのかもしれませんが、未知の作品に飛び込む楽しさもあるのに。
朝井
共感を得る読書も否定するつもりはないんですけれど、共感できないという理由だけでその本を否定するのはもったいないなと。
加藤
もしかすると、若い人の読書離れの理由の一つがそこにあるのかもしれませんね。

読書の面白さに気付く
きっかけになるような作品を

朝井
未知のものに出会う勇気って大切ですよね。自分の価値観を拡げてくれる。
加藤
そう思います。朝井さんは、小学生の頃から小説を書いていたそうですが。
朝井
小説とはいえない内容でしたが(笑)。小学生の時に書いた小説を学校の先生が読んでくれて、先生と生徒というよりも、人間対人間という形で感想を伝えてくれたことが当時の私にとって大きな体験だったんです。文章を介在すると全然立場の違う人が同じ目線に立ってくれると気づいたというか。加藤さんが小説を書きはじめたのはいつですか。
加藤
僕はずっと国語が苦手で、本も流行りのものを読むくらいでした。それが、高校3年生の時に国語表現という選択授業をとったら、とにかく文章を書かせるんです。「かくれんぼを原稿用紙2枚で説明しろ」とか。
朝井
面白そうな授業ですね!
加藤
かくれんぼのルールを説明するだけでなく、少し哲学的なことを混ぜて書いたんです。匿名で提出してみんなで投票したら、それが人気で。自分は意外と書けるかもしれないと思いました。それで、卒業文集で何を書いてもいいと言われた時、はじめてフィクションを書きました。それが「にべもなく、よるべもなく」の作中作の「妄想ライン」という小説です。もちろん今回使うにあたって相当書き直しましたが。
朝井
そうなんですね。はじめて書いた長編はデビュー作の『ピンクとグレー』ですか。
加藤
そうです。事務所の人に小説を書きたいと伝えたら、「一か月半で書いてみろ」って言われて。それで書き上げられたから、今も頑張れるんです。
朝井
一か月半で! アイドルとしても忙しいなかで……。
加藤
アイドルの仕事ではグループのみんなや、支えてくれる人たちと一緒にものを作っている意識がありますが、小説はいろんな方の力を借りつつも最終的にジャッジするのは全部自分ですよね。責任も尋常じゃないけれど、達成感や好きな世界を表現できる楽しさ、読んでもらえた時の救われる気分がまた違う。
僕が本を出した時、否定的な意味で「アイドルが本を書いた」とも言われましたが、それは最初から分かっていたので、その状況を楽しむつもりでした。その後そういう人たちの色眼鏡が取れる瞬間も、手に取るように分かりましたし。
朝井
状況を楽しむ余裕がすごい。私もデビューした時に年齢などが話題になって、作品の質だけで評価されていないと感じてしまって。それを払拭するために、全身全霊でメッセージを書こうと思ってきました。それとは別に、デビューした後で「作家は孤独なものだ」みたいなイメージを押し付けようとする人がいることにも気づいて、その作家像を壊したくて。私は作家だけど毎日楽しくてリア充だけどその何が悪いの、って言いたい(笑)。加藤さんも今、新しい作家像を開拓してらっしゃるわけですよ。
加藤
僕が壊したかったのはジャニーズ像のほうです。ジャニーズのなかで、誰もやっていない新しいことをやりたかったんです。
朝井
この短編集を読んだら、「アイドルが書いた小説」と言う人は減りますよ。
加藤
それと同時に、今まで本を読んでこなかったファンの方が、僕の本をきっかけに読書って面白いんだと気付いてもらえたらいいなとも思っていて。
朝井
加藤さんの本が店頭に並ぶことで、普段書店の文芸棚に行かない人も足を運んでくれて、その両隣にある本にも興味を持ってくれるかもしれない。読書離れをした人がいるとしたら、また別の角度からその人たちを取り戻しているのが、今の加藤さんだと思います。とてもありがたいです。
加藤
そう言ってもらえるとうれしいです。僕、作家の方たちから嫌われているだろうと思っていたので……。アイドルやっているくせに自分たちの領域にやってくるなんて、って。
朝井
それはないですよ! 今は作家みんなで文芸を盛り上げていこうとしているので、加藤さんもそのエンジンになってもらえたら。加藤さんは特に、作品とそこに込めたメッセージを投げる力が他の作家とは別の方向にも向くと思うので、これからもいろんな方向に小説を投げていってほしいなと思います。
加藤
朝井さんにそう言ってもらえるなんてとても嬉しいです。これからもたくさん刺激をもらって、自分も頑張ろうと思います。

構成/瀧井朝世

加藤シゲアキ
1987年、大阪府生まれ。青山学院大学法学部卒。
2012年『ピンクとグレー』で作家デビュー。以降、年一冊のペースで新作を発表。 ジャニーズ事務所のアイドルグループ、NEWSのメンバーとして芸能界でも活躍の場を広げている。

朝井リョウ
1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学在学中の2009年に『桐島、部活やめるってよ』 で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『何者』で、戦後最年少で第148回直木賞を受賞。 執筆の他、ラジオパーソナリティとしても活躍中。

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